○真相は直視されるべき
米ウッズホール海洋研究所シニア・リサーチャーを務めるケン・ベッサラー博士は、「日本政府と国民との意思疎通が酷すぎる」と指摘、以下のとおり続けた。
「この分野の業務は、一日も早い改善を要する。国民が放射能汚染レベルと健康に対する影響についてより深く理解するよう、政府は説明を尽くさなければならない。これらの業務を行う責任があるのは、なにも政府と東京電力に限らない。環境放射化学分野が専門の研究者も参与すべきだ」
ベッサラー博士は、2011年以降の福島原発事故による海洋への影響を研究しており、ウッズホール海洋研究所内に海洋環境放射線センターを創設した。「福島原発事故が海洋に及ぼす影響について、参考となる前例は皆無だ。というのも、原発から漏れ出した放射線物質の80%が海に流出したからだ」と博士は説明した。
一方、これらの影響をめぐる日本側の態度についてみると、「原発事故による影響は有限」が基本スタンスとなっている。このほか、一種の「沈黙」「冷淡」といった態度が随所にみられる。だが、海外各国の専門家は、「日本政府は、意識的に、原発事故が環境・健康・食品の安全などさまざまな分野に及ぼす長期的な影響を曖昧にしようと意図している」と指摘した。
さらに、ある専門家は、「日本の当局は、原発事故の処理や善後策に対して、根拠のない楽観的な姿勢を貫いており、その結果、事故の影響を拭い去ることに立ち向かう力不足に陥っている」との見方を示した。チェルノブイリ子ども基金の顧問を務める小児科医の黒部信一氏は、チェルノブイリ原発事故被害者の療養施設を訪れた経験がある。同氏は、「チェルノブイリ原発事故と比べ、福島原発事故では、事故後に設立された専門療養機関の数が少なすぎる。日本政府の処理方針に依拠すると、30年後、福島原発事故によってもたらされる健康被害は、チェルノブイリ原発事故の危害よりさらに大きいと予想される」とコメントした。
関係者は、「日本政府が故意に原発事故の影響を『ぼやかそう』としていることは、国際的にみれば、道義と責任感に欠けた振る舞いだ」と指摘。国内からみると、さまざまな政治的圧力から逃れること、日本のイメージを損なうことを避けること、特に海外から2020年東京オリンピック開催の安全性が保証されるのかという疑惑を払拭すること、などの意図が見え隠れしている。