ここ数日、日本人「人質事件」が日本メディアと国際世論の焦点となっている。過激派組織「イスラム国」(IS)に拘束された湯川遥菜さん、後藤健二さんという2人の日本人人質が相次いで殺害されたことで、「人質事件」は「人質危機」へと悪化した。人質2人が相次いで殺害されたという残酷な事実は日本国民に大きな心理的打撃を与えた。「人質危機」は日本に深い影響を与えただけでなく、国際社会の目も日本、特に安倍内閣へと向けさせた。今後しばらくの間、国際世論の大きな関心は「人質危機」が安倍内閣の実施している「集団的自衛権の行使容認」にとって「アクセル」になるのかどうか、安倍政権が急ぐ「平和憲法」改正にとって「天から与えられた絶好の機会」になるのかどうか、「安倍外交」にとって「ワーテルローの戦い」になるのかどうかに向けられるだろう。(文:厖中鵬・中国社会科学院日本研究所学者)
日本メディアを含む少なからぬ国際メディアの見解によると、今回の「人質事件」の導火線となったのは安倍首相が中東訪問時に過激派組織「イスラム国」(IS)と戦う周辺各国に総額2億ドル前後の支援を表明したことだ。まさにこの「2億ドルの支援」が「イスラム国」の怒りを買い、「日本政府は『イスラム国』に対する掃討行動に全力で参加する」と思わせることとなった。
だがこの見解が妥当か否かの議論はもう余り重要ではない。重要なのは、「人質危機」という既成事実がもたらず次なるインパクトが何なのかだ。安倍首相としては、まだもっと重要な「政治的使命」があるからだ。安倍内閣は「人質危機」発生前からすでに、後藤さんら2人が「イスラム国」に拘束されていることを知っていた。共同通信社の報道によると、安倍晋三首相は1月27日の衆院本会議で、「イスラム国」に拘束された日本人人質事件に関して、湯川さんおよび後藤さんと連絡が取れなくなった件への対応のため首相官邸と外務省がそれぞれ昨年8月と11月に情報連絡室と対策室を設置したことを明らかにした。共同通信社の報道からは、安倍首相が中東訪問前から日本人2人が「イスラム国」に拘束されたことを知っており、「人質事件」が極めて「突然」の事ではなく、少なくとも「心の備え」はできていたことが難なくわかる。だが「心の備え」はできていても、やはり悲惨な「人質危機」が起きてしまった。これは何を物語っているのか。安倍首相の「外交・安全保障政策」に余りにも多くの「不手際」があったことを物語っている。
第1に、集団的自衛権の行使容認の問題だ。昨年7月に安倍首相は閣議決定の形で集団的自衛権の行使を容認した。安倍首相にとって今年必要なのは、順調な海外派兵を可能にする自衛隊法改正案など、集団的自衛権の行使容認に関連する一連の法案を国会で一挙に成立させることだ。だが甚だ皮肉なことに、安倍首相はこうした法案の成立は今後速やかな派兵によって在外日本人の安全を守れるようにするためだと主張しているが、たとえ自衛隊法改正案が成立しても、日本政府が速やかかつ効率的に在外日本人の安全を守れるとは限らないことが「人質危機」によってはっきりと示された。「人質危機」は安倍首相のいわゆる集団的自衛権行使容認の本質が、日本の軍拡と戦争への備え、国際社会における軍事的影響力の強化に向けた戦略的地ならしであることを十分に暴露した。