村上春樹は中国の深い影響を受けている。デビュー当初から、村上の作品には中国をめぐる歴史の記憶というテーマが見て取れる。
村上春樹がある香港の学者の質問に対し、中国の古典的名作を脈絡なく断片的に読んだことがあるというものですが、魯迅を記憶していることをはっきりと述べた。日本の文芸評論家・藤井省三教授によると、「彼がそれを読んだのは恐らく1960年代初めでしょう。当時、村上の家では河出書房の『世界文学全集』を毎月購読しており、村上はそれらを一冊一冊読み上げながら10代の時を過ごしたことになります。そして河出書房のこの『世界文学全集』の第47巻が「魯迅・茅盾選集」で、中には魯迅の『狂人日記』、『鋳剣』、『阿Q正伝』などの代表作があります。青春期の村上は『世界文学全集』を通して『阿Q正伝』などの魯迅の作品を読んだ可能性が大きいのです。」>>
藤井氏はまた、魯迅の影響が見て取れる具体例として、村上氏の処女作「風の歌を聴け」の冒頭の一文を取り上げ、「『完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないように』は、魯迅の雑文集『野草』の中の『絶望は虚妄だ、希望がそうであるように』という名文を彷彿とさせる」と指摘した。>>