自分がマイノリティだと自覚しているからこそ、北京が持つ多様性や許容性に引かれるのかもしれない。土屋さんは、北京の魅力について次のように語る。
-- 上海が外見や雰囲気重視だとすると、北京は中身重視だと思います。表現による自由は制約されているはずなのに、みんな好きなことをやって、独特な文化があり、自由な感じを受けます。政治に興味を持っている人も多く、みんな自分の意見を持っています。
北京は自由な感じがすると言うと、中国人には、「俺らは家を買っても、70年で権利がなくなるし、車だって自由に買えない。海外のものを買おうとしてもものすごい税がかかって高いし、海外へ行くにも中国のパスポートでは自由にビザさえ取れない」と言われます。
確かに多くの制約があるし、政府や外部から与えられた自由ではないけれど、もっと人目を気にせずやりたいことをやるという精神的な自由があります。日本にいると周りの目線が気になりますし、発展しすぎたゆえのネガティブなところがある。北京にはそういうネガティブなところがあまりないですよね。
あと北京の人は、食べることや、家族のこと、お金のことを話題にすることが多い。これってまさに人間の本能ですよね。生きるための基本であり、生きる糧を得るための手段です。そういったことを常に考えているのってすごく本能的だと思います。でも、だからこそ、ノイズが入りにくく、ストレートに生きていける。
中国の世界への影響力が日増しに拡大する中、日中ハーフということで、日中関係や両国の人々の考え方などについて質問されることが増えてきた。
-- 中国人だけでなく、ありとあらゆる国籍の人々から色々と聞かれますね。みんなすごく興味あるんですよ。中国も日本も今や世界的に大きな影響力を持つ国ですし、両国の歴史や関係性もすでによく知られているので。
中国人にしてみれば日本人はすごくミステリアスな存在です。中国人は本能的なので、ストレートにものを伝えますが、日本人はストレートではないですよね。だから、日本人の行動についても、なんでそうするのかわからないことが多い。
例えば、W杯で日本のサポーターがゴミ拾いをした件も、どういった文化背景があって、なぜこういうことをするのか?誰のために、なんのためにするのか?といったことを聞かれることが多い。そうすると、自分の中でもうまく説明しなければならないという使命感みたいなものが生まれてきます。
土屋さんは将来の夢を次のように語った。
-- アメリカ式や中国式ビジネスマナーなどに触れてきたので、それを活かして会社経営などをやりたいですね。その上で、日本と中国のために何かしたいです。もしかしたら、日中どちらかではなく、第3国で日中両国のために何かをするという選択肢もあるかもしれないと考えています。
どちらかの国にいると、やはり最終的にどちらかに偏ってしまいます。でも、どちらか一方を選ぶことはできないし、どちらの国にも良いところと悪いところがある。お互いの言い分もわかるからこそ、どちらの味方もしたくないんです。
将来、土屋さんがどこの国で、何をしていようと、一旦北京にさえ戻れば、北京の文化的多様性を体現した三里屯南街エリアはいつでも暖かく土屋さんを受け入れることだろう。人生を楽しむことに貪欲で、本能的に生きる人々がそこに集まっているかぎり。