「11時半に銀座の交差点のデパートのライオン前で会いましょう」。東京で、尊敬する友人の島津氏から「微信」(WeChat)のメッセージを受け取った。10分前に着いてライオン前で待っていたが、時間が来ても氏は姿を現さない。もう一度、「微信」のメッセージを送ると、「もうライオン前にいますよ」との返事。おかしい。ライオン像は一つしかないはずだし、その前には私しかいない。氏は一体どこにいるのか。デパートの前を探すと、氏は違う側で待っていた。到着してからやはりしばらく経つらしい。「こちら側のライオンはもう撤去されてしまいましたよ」と私が言うと、氏は初めてライオンが一頭しかいなくなったことを知ったようで、そういうことかと笑い出した。私も笑った。もし「微信」がなければ、人の大勢いるデパート前で会えたかわからず、高価な国際電話をかけなければならないところだった。
銀座で中国人の目につくのは、中国の家電メーカー「海爾」(ハイアール)の大きな広告や決済サービスの「銀聯」(UnionPay)が使えるというシグナルのほか、中国人観光客が訪れる商店の近くで無料のWi-Fiが必ず使えることだ。中国人は、場所も時間も問わず、いつも「微信」で連絡を取り合っている。
各種のデータによると、「微信」のユーザーはすでに6億人を超え、世界の200以上の国・地域をカバーしている。使える言語も20種以上に及び、日本語も当然含まれる。隣国同士である中国と日本との関係は深く、大量の日本人が中国で働いており、中国から日本への観光客は今年通年で300万人を超えるとされる。これらの人々が日本で「微信」を使えば、「微信」や「WeChat」が新たなブランドとして日本で影響力を持つ日は近い。
日本人は現在、同様のサービスで「LINE」を使っている人が多い。ニュースサイト「J-CAST」役員の熊田伸氏も「LINE」ユーザーの一人だ。だが熊田氏によると、「LINE」はサービス面で「微信」よりも遅れているところが多いという。「『微信』には公共アカウントや支払いサービスなどがある。サービス内容から言えば、中国はモバイル通信の分野で世界の先頭を行っている」と熊田氏は指摘する。日本では金融制度がかなり細かく発展しており、モバイル通信の応用にあたっては制度的に乗り越えなければならない問題が多い。モバイル機器での支払いで現在の金融面での制限を突破するのは容易なことではない。