鉄打ち、鼓作り、ふいご(火力を強めるために用いる送風装置)作り、黒陶の制作、油の圧搾、蹄鉄作りなど、農耕社会が残した伝統的な手工芸は、工業のライン生産方式の発展によって、都市生活ではとっくの昔に見られなくなってしまった。しかし、生活を感じさせる独特の味わいを持つ伝統的な手工業による品々は、現代社会で人々が心懐かしむ存在となっている。23日、日本の著名作家・塩野米松氏が西安で講演を行い、西安の高齢者らと交流した。その際に、現代社会から徐々に消えつつある伝統的な手工業品が会場に持ち込まれ、集まった多くの人々の心を捉えた。西安晩報が伝えた。
実のところ、塩野氏の伝統的な手工業に対する傾倒ぶりは日本ではかなり以前からよく知られている。30年という時間を費やして、日本各地を回り、異なる業種の職人の話を聞いたり、その生活を記録したりと、最後の宮大工や、漆し掻きといった職人たちの生活や技術を職人の言葉を使って記録してきた。塩野氏がこのたび西安を訪れたのは、西安の手工業の職人を取材し、職人たちの技術や生活を理解するためだ。
午後3時、西安市の無形文化財保護センターの王智副センター長が地元の手工業の職人十数名を連れてやってきた。職人たちはみなそれぞれの自分の手で作り上げた作品を持ってきて人々に披露した。中国の伝統的建築物に使用される伝統彫刻工芸品、鉄打ち、鼓、ふいご、せいろ、黒陶、圧搾の油、馬の蹄鉄、手撕画(手で裂いた色紙で切り貼りした絵)、しん粉細工(しん粉を練り、それに着色をほどこし、花や鳥、人の形などに形成する)、天秤ばかり、製紙、くまどり(京劇や地方劇などに見られる化粧法)、娃娃哨(土と水で作った人形の形をした笛)、凧作り、編んだ紐で作ったひょうたんのアクセサリー、中国伝統建築の飾りなどを作っている、かつては中国人の生活の中で大きな存在感を放ったが、今では記憶の中にしか存在しなくなった手工業の職人たちだ。
塩野氏は凧作りの名人・張天偉氏が持参した、歯や爪をむき出して8本の長い足をくねらす蟹の凧に非常に強い興味を引かれていた。塩野氏は、感慨深げに、「最も中国らしい中国独特の味わいを堪能することができました」と満足感を示しながらも、「もしかすると、この職人さんたちは最後の伝統的手工業の職人になるかもしれません。これらの職人さんや先人たちは千年以上もの間、自然を取り入れ、木の皮や藤のつるなど天の恵みを編んだり、綿布や工具を作ったりして、生活を維持してきました。しかし、工業化とグローバル化の波に襲われ、これらの手工業の精巧な技術は消滅の危機に瀕しています。職人の方々が、その両手を使い、世代を超えて継承してきた貴重な記憶の置き場所が将来最終的になくなってしまう」と危機感を募らした。
日本で、塩野氏が最も気に入っているのは、柳の木の皮で織った弁当箱や豆腐用のざるなど身近な日常生活で使う手工芸品だ。しかし、西安では、鉄打ちの職人が持ってきたずっしりと重い鉄器に心引かれた。塩野氏は、「私は憧れと羨望の気持ちを胸いっぱいに抱いて、職人の方々の仕事を眺めている子供たちの中の一人であり、またこれらの職業が存在しなくなることを非常に残念に思っている人物です」と語った。(編集MZ)
「人民網日本語版」2013年2月25日