中身が見えない「盲盒」(ブラインドボックス)は日本の福袋やガチャガチャを源流とするコンセプト消費で、ここ数年の間に人々の視界に入ってきた。
あるネットユーザーはブラインドボックスについて、「ブラインドボックスは以前のインスタントラーメンを買って付録のカードを集めるのと似ているが、ラーメンは安くておいしかった。でもブラインドボックスは見た目がよくて面白いだけで、おやつすらついていないし、値段もラーメンの何倍もする」と評価する。
しかし、その価格が高くて可愛さだけを売りにしているようなグッズに、大勢の90後(1990年代生まれ)や00後(2000年代生まれ)は惜しげもなくお金を使っている。
天猫(Tmall)のデータによると、2019年には約20万人が一人あたり平均2万元(1元は約15.2円)以上をブラインドボックスのコレクションにつぎ込み、年間100万元近く使った人さえいる。中国でブラインドボックスを広めたポップマート社は、若い人の支持を受けて株式も上場した。ブラインドボックスはなぜこれほどまで魅力があるのか。ブラインドボックスが売っているのは結局のところ何なのか。
高プレミアで新たな「資産運用商品」に?
簡単に言えば、ブラインドボックスには何かが入っているが、買う時にはそれが何かわからない。今、最も人気があるのは漫画・アニメのフィギュアや関連グッズで、値段は30元から100元までと開きがある。
ブラインドボックスの中国での歴史はそれほど長くない。05年頃にアートトイ・スタジオやデザイナーが登場し、10年前後にポップマートや19八3などのカルチャートレンド企業が誕生し、市場は標準化され始めた。15年から16年にかけては、52toysや葩趣などのプラットフォームがリリースされた。
IP(知的財産)をもつキャラクター玩具の人気に後押しされて、ブラインドボックスはそのスタイルを確立し、爆発的な成長期を迎えた。中国産業情報網のデータによれば、19年のブラインドボックスの成長率は609%に達し、消費者1人当たり平均4.2個を購入したという。
粗利益率の高さ。これが現在のブラインドボックス産業の際だった特徴の一つで、企業の中には65%に達するところもある。さらに驚くのは、ブラインドボックスは中古取引市場でのプレミアが価格の数十倍、時には100倍以上にもなることだ。
天猫が19年8月に発表した「95後(1995年から1999年生まれ)ゲーマー『手切れ』度ランキング」(「手切れ」とはネット通販などで買い物をやめるには「手を切り落とすしかない」ほど過剰な衝動買いをしてしまうことを指す)をみると、95後が最もお金を使う趣味のうち、人気おもちゃ・フィギュアが1位だった。ブラインドボックスのコレクションはコアな愛好家の増加率が最も高い分野となっている。天猫だけみても、20万人近い消費者が毎年平均2万元以上をつぎ込み、購買力が最も高い層は年間100万元以上使い、年代別では95後が大半を占めた。中古品取引プラットフォームの閑魚が発表したデータでは、ポップマートで人気のブラインドボックスは値段が59元から2350元に跳ね上がり、59倍にもなった。転売して年間10万元を稼ぐ人もいる。ポップマートはおもちゃを大人の楽しみに変えたアートトイ・ブランド企業で、17年に1億5800万元だった売上高が19年には16億8300万元になり、粗利益率は64.8%に達し、時価総額は14倍増加した。
こうした発展の流れと同時に、ブラインドボックスの楽しみ方も「枠を超える」ようになり、飲食や化粧品、文房具、アパレルなどより多くの業界がブラインドボックスを受け入れ、そのノウハウを参考にするようになった。たとえばピザレストランのピザハットとオンラインフードデリバリープラットフォーム「Eleme」がこのほどAthiefやBeasterといった30の「国潮」(中国の伝統要素を取り入れたおしゃな国産品トレンド)ブランドとコラボして30種類の記念Tシャツを打ち出し、ブラインドボックスの形で発売した。
売りは「ブラインド(盲)」か「ボックス(盒)」か?
消費者の欧さんはブラインドボックスについて、「何が入っているかわからないので、ドキドキするし期待もする」と話す。業界関係者の文果さんは、「ブラインドボックスは1つ買うと止まらなくなる。誰でも多かれ少なかれコレクション癖があるので、1つのセットの中に1個でも2個でも特に気に入ったものがあれば、コンプリートしなければ気が済まなくなる」と話す。
ブラインドボックスはフィギュアとは違い、世界観や価値観はなく、芸術性は高くない。理解するために長い時間をかける必要はないし、デザイナーや創作の理念をざっと理解するだけでいい。あとはデザインが好きかどうか、自分に買えるかどうかだけだ。「ブラインドボックス(盲盒)」という名前の由来は、おもちゃが表示のないボックス(盒)に入っていて、消費者は開けるまで自分が買ったのがどのおもちゃかわからない「ブラインド状態」(盲)というところにあり、こうした仕掛けが単純な商品に不確実性を持たせている。この不確実性こそが人々の心にぴたりとはまり、ブラインドボックスはギャンブルのように癖になるのだ。
ブラインドボックスの消費には人々の「ギャンブル性」が潜んでいるというなら、そこに付随するのはウキウキする気持ちだ。
業界関係者が言っているように、ブラインドボックスが成功したのは、売っているのが単なる商品やモノではなく、買う時の気持ちや娯楽性だからだ。
つまりブラインドボックスとは「小売の娯楽化」だ。買う側にとって、商品を開けた時から、商品そのものはもう関係がなくなり、買ったのは気持ちであり、ワクワクする感覚であることに気づくだろう。商品を買うことから気持ちを買うことへの非常に大きな変化がそこにはある。
ブラインドボックスには書籍やおやつ、化粧品、飲食品、アパレル製品などがあるが、主役はキャラクター玩具だ。ブラインドボックスのおもちゃに人々は何を見るのだろうか。一部の人々にとっては、パートナーであり、愛玩物であり、人とつながるきっかけだ。
現代の都市社会では「パートナー」は希少資源になった。同年代の親族がいない95後や00後の一人っ子、仕事が忙しく日常的な交流や交際が少ないホワイトカラー、お金と暇をもてあます高齢者が、「パートナー経済」を急速に発展させた。
こうした人々にとって、ブラインドボックスのおもちゃは自分に寄り添う「パートナー」であり、持っているおもちゃを「うちの子」と呼ぶ人もいる。ブラインドボックスおもちゃのコミュニティで人と交流したり楽しみを共有したりする人もいて、ブラインドボックスには社交という属性も加わった。
ブラインドボックスの根本はIP(知的財産)コンテンツの戦い
現在のブラインドボックスビジネスは、おもちゃ、書籍、アパレル製品、飲食品、化粧品、文房具などの分野を問わず、実質的にはキャラクターの商品化だ。特におもちゃは漫画・アニメ・映画に関するものが多く、デザイナーが単独でデザインしたものもあるが、消費者にとってみれば、ブラインドボックスを購入する一番大きな動機はそのキャラクターとデザインを手に入れたいというところにある。
趙さんはハリー・ポッターの熱烈なファンで、ハリー・ポッターが某ブラインドボックスメーカーと提携した時には、「これまでずっとブラインドボックスを買う人の気持ちが理解できなかった」という彼女が、コラボシリーズを手に入れると決め、「全部買ってもいい」と言うまでになった。
ポップマート創業者の王寧氏は以前、講演会でブラインドボックスのコア競争力に触れ、「それはキャラクターの価値だ。人気キャラクターの独占契約がまさにポイントの1つ」と語った。
商業化のポテンシャルを秘めたキャラクターを探し、ルートの優位性を利用して商業化を進めるのが、ブラインドボックスが長らく人気を獲得し続けていることの内在的な中核論理だ。何が入っているかわからないという「不確実性」と、生活の「パートナー」のような存在になることが、この業界の発展の根本にある。キャラクターIPコンテンツ、サプライチェーン、ルートはこの業界によって検証されたビジネスのコアになる部分だ。
未来のビジネスの戦いはブラインドボックスに限定されず、アートトイ業界全体で新旧キャラクターIPコンテンツの戦いが繰り広げられることになるだろう。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2020年6月18日