デジタル化で漢字の書き方を忘れる人が急増　中国

　「鳥が3羽同時に同じ木にとまった形から、『集』という文字ができた」----。甲骨文字の発掘地・河南省安陽市にある中国文字博物館では、案内スタッフが来場者に「甲骨文字」の説明を行っていた。最古の中国の文字の解説を聞いた来場者からは、驚きと納得の声が上がった。新華網が報じた。

　世界唯一の文字の博物館である同博物館は、実物や映像、模型、拓本などを通じて甲骨文字、金文(古代の青銅器に記された銘文)、篆書体(戦国時代の公式書体)、隷書(漢代の公式書体)、楷書(南北朝から隋唐にかけて標準となった書体)などの漢字の変化を紹介。手で実際に書くよりもパソコンが主流になっている現在、中国の文字や書道の美しさ、価値に目を留めるよう呼び掛けている。

　北京で物書きの仕事をしているというある来場者は、「漢字は幾度となく変化を経験してきたが、常に美しさを保っている。それなのに、今の人が書く漢字はひどい」と語った。同市にある古代中国殷王朝（紀元前1600 - 1046年）後期の遺構・殷墟(いんきょ)の発掘が始まって今年でちょうど85周年になる。そのため、同博物館に足を運ぶ人も今年、特に多くなっている。

　あるネットユーザーは、「パソコンや携帯も持つようになってから、字を書くたびに、悲しい気持ちになる。右手でペンを握りながら、左手では携帯で漢字を調べている……」と嘆く。電子機器の発展に伴い、ここ十数年で漢字を「書く」という行為が影を潜めるようになり、数千年にもわたって発展を積み上げてきた「漢字」という文化は今、大きな試練に直面している。

　中国のリサーチ会社・零点研究咨訊の今年のデータによると、調査に回答した回答者の9割以上が、これまでに漢字の書き方を忘れたことが「ある」と答え、うち3割が、「よく忘れる」と答えた。そして、ペンで漢字を書くと、字が乱れ、まとまりがないという。漢字は現在、その輝きを失いかけているのだ。

　中国文字研究会の呉振武・会長は、「漢字の書き方を忘れるというのは、パソコンや携帯など、最新の科学技術の産物。例えば、ある大学生は論文を書く時、『答弁』をなんと『大便』と書き間違えた(中国語では発音が似ている)ことがあるという。パソコンなどのキーボードを使うことが多くなり、『書く』ということが少なくなっているのだ。漢字や書道という文化には、もっと注意が向けられるべきだ」と語る。

　呉会長は、「我々一人ひとりが中華文化の継承者。伝統的な文化を継承し発展させていくことに対する責任を忘れてしまったり、軽視したりしてはならない。社会の発展にはマウスや携帯などの現代的なツールが必要だが、漢字の書き方をしっかり覚えてくこともとても重要。これも文化の継承の一つだ」と指摘している。

　四川省成都市で広告会社に勤める王晶さんは、娘に模範を示すため、毎週週末になると、娘と共に書道を練習しているという。「小さい頃から、漢字の書き方を学んできた。それでも、パソコンや携帯を使うようになって、漢字を忘れるようになった。中国人は反省する時を迎えている」と語る。

　しかし呉会長は、「我々は中国語を話し、漢字を書いている。文字は中国の文化と同じで、これまでずっと伝え続けられてきたもの」とし、漢字が継承されていくことに楽観的な見方を示す。その理由は、「字を見れば書いた人の性格なども分かるというのは、時空を超えた感動だからだ」。

　呉会長は、「近年、中国政府や関連の部門・委員会は、書道教育を重視し始めている。また、中国の各地の多くの小中学校でも書道の授業が始まっており、実際に字を書くことを提唱し、学生らが漢字の美しさやその文化に気付けるよう励んでいる」と語る。

　2009年11月に一般公開となった同博物館は、開館以来400万人以上の来場者が訪れている。同博物館は、映像ホールなどを設置してデジタル化された展示物を展示するなど工夫を凝らし、さらに多くの、特に若い来場者が中国の文字の昔と今を知ることができるよう努めている。
　
　同博物館の宣伝スタッフ楊炎さんは、「中国人の来場者は家族連れが多く、見学を子供の教育の良い機会と見ている。また歴史の中で、漢字を採用した日本や韓国からの来場者も多い。彼らは漢字のルーツを知ることで、古代の東方文化を感じ、探求している」と語る。（編集KN）

　「人民網日本語版」2013年7月2日