周傑倫(ジェイ・チョウ)の新曲「Mojito(モヒート)」がリリースされると、騰訊(テンセント)音楽、動画共有サイトの快手や抖音(Tik Tok)などのプラットフォームがデジタル音楽著作権の争奪戦を繰り広げ、リリースから11時間で売上高が760万元(1元は約15.1円、約1億1452万円)となった。中国国内の音楽市場はデジタル音楽産業に進出しており、周傑倫の新曲を通して、中国の有料音楽配信市場がどのような競争局面を迎えることが予想されるだろうか。
有料音楽配信に春が来た?
6月12日0時、周傑倫の新曲「Mojito」が騰訊QQ音楽、酷狗音楽、酷我音楽、咪咕音楽で同時にリリースされた。リリースから1時間で、ダウンロード回数が100万回を突破し、一時はサーバーがダウンするほとアクセスが殺到した。同日10時の時点で上記4プラットフォームでの累計ダウンロード回数は250万回を超え、1回あたり3元として計算すると、売り上げは760万元に迫る。
周傑倫が有料音楽配信でブームを起こしたのはこれが初めてではない。昨年9月にも、シングル「説好不哭(泣かないと約束したから)」がリリースから2時間で売上高が1千万元を突破し、10日間でダウンロード回数は886万回に迫り、売上高は2650万元を超え、当時のQQ音楽でそれまでに最も売れたデジタル配信の楽曲になった。
周傑倫の楽曲はデジタルシングルの形式でリリースされるようになってから、これまでずっと好調な業績を上げてきた。ユーザーやファンからみると、1曲3元は受け入れ可能な価格で、制作・販売サイドからみると、デジタルシングルをリリースすることでより正確にデータを把握できるようになり、オフラインでリリースする場合にかかるコストもカットできる。こうしてデジタル音楽配信が業界の大きな流れになっている。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、しばらくライブやコンサートができなくなり、「クラウドコンサート」や「クラウドシアター」、「クラウド音楽祭」といった公演スタイルも機運に乗じて次々登場した。
5月19日にはオリジナルミュージカル「一愛千年」が、オンライン有料配信の形で初演を迎えた。
音楽バラエティ「楽隊的夏天」で人気が出た九連真人などのミュージシャンが、音楽プラットフォームの網易雲音楽のプロジェクト「現場を照らすキャンペーン」で有料ライブ中継を2回行った。1回の電子チケット価格は約10元で、オフラインのコンサートよりはるかに安く、オンラインの視聴者数はオフラインの体育館の最大収容人数をはるかに上回った。統計によると、2回の中継の視聴者は合計41万人を超え、ライブハウスでの公演はもとより、大規模なコンサートでの動員数も大幅に上回った。バーチャルプレゼントのコストを除き、九連真人の最大視聴者数は12万人、電子チケット収入は100万元にのぼった。
プラットフォームが著作権への投資を拡大
中国内外の大勢のアーティストが次々にデジタル楽曲のリリースを選択する背後に浮かび上がるのは、中国国内のデジタル音楽産業の発展が急行車線に入ったことだ。ますます多くの音楽ユーザーが正規版に料金を支払うようになっているのに伴い、中国デジタル音楽産業は新たな発展のチャンスを迎えた。騰訊音楽が発表した第1四半期の決算によれば、オンライン有料音楽ユーザーは4270万人に上り、前年同期比50.4%増加し、有料形式の浸透率は6.5%で前年同期の4.3%より目に見えて上昇した。
ここ数年、中国のデジタル音楽市場は順調な発展ぶりをみせている。中商産業研究院が発表した「2020-2025年中国デジタル音楽産業市場見通し及び発展のチャンス研究報告」によると、3大音楽プラットフォームが音楽著作権を共有するようになって、各プラットフォームで扱う楽曲がかなり豊富になり、今後のデジタル音楽の発展をさらに推進することが予想される。18年の中国デジタル音楽産業の規模は600億元を突破し、20年は700億元を超える見込みという。
こうした発展トレンドの中、騰訊、網易、字節跳動、ビリビリ、快手などはデジタル音楽著作権への投資コストが上昇を続ける。騰訊音楽が発表したデータでは、19年のコンテンツ関連コストは480億元を超え、その大部分は著作権取得の費用にあてられたという。
騰訊音楽と網易雲音楽が音楽著作権をめぐって激しい競争を展開するほか、抖音と快手も投資を拡大していることは、快手がなぜこのたび大金を支払って周傑倫と契約し快手プラットフォームに誘致したかの理由でもある。周傑倫は1人で中国の騰訊音楽、抖音、快手と緊密な協力を展開しており、ここから各プラットフォームが周傑倫というビッグスターをどれほど欲しかったかがわかる。
著作権コスト高騰の背景
音楽著作権にかかるコストが高騰している。オンライン音楽プラットフォームとショート動画プラットフォームの目的はそれぞれ何だろうか。
一方で、ショート動画プラットフォームにしろ、オンライン音楽プラットフォームにしろ、プラットフォームがより多くの商業的価値を生み出すにはMAU(月間アクティブユーザー数)の規模がとりわけ重要だ。騰訊音楽、網易雲音楽、抖音、快手などのプラットフォームのユーザー規模をみると、若いユーザーが中心だ。各プラットフォームはユーザー数の増加率を高めるだけでなく、ユーザーのロイヤルティ(忠誠度)を高める必要もある。そのうち音楽リソースがプラットフォームがユーザーを引き留めるための重要なリソースになり、複数のプラットフォームがデジタル音楽著作権をますます重視するようになった理由はこれだ。
また一方で、中国デジタル音楽プラットフォームの主な収入源の構成をみると、ユーザーが支払った料金、広告収入、著作権の運営収入の3つの部分がある。騰訊音楽の場合、オンライン音楽部門の収入は同27.4%増加して、20億4千万元に達した。第1四半期の騰訊音楽娯楽集団のオンライン音楽有料ユーザー数は4270万人に達して、同50.4%増加し、基本的な有料化率は6.5%で、前年同期の4.3%より大幅に上昇した。
抖音や快手のようなショート動画共有プラットフォームにとって、プラットフォーム上の楽曲ストックがショート動画コンテンツを多彩にする重要なポイントであり、音楽のないショート動画には魂がない。同時にこうしたプラットフォームにとって、プラットフォームで活躍するユーザー層はより多くの広告収入をもたらしてくれる可能性がある存在だ。米調査会社のセンサータワーのデータでは、4月の抖音と海外版TikTokの世界のアップストアとグーグルプレイでの売り上げは7800万ドル(1ドルは約107.4円)を超え、前年同期より10倍増加して、世界のモバイルアプリの売り上げランキングで1位になった。
この2点から、オンライン音楽プラットフォームとショート動画プラットフォームがデジタル音楽著作権をますます重視するようになっていること、デジタル音楽がもたらす商業的価値を利用することが売り上げに影響する重要なポイントでもあることが容易にうかがえる。さらに、これらのプラットフォームがこれからデジタル音楽著作権をめぐって繰り広げる争奪戦は激化する一方であることが予想される。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2020年6月19日