各方面の注目を集めたベンツ車の故障トラブル事案が一段落した。権利を主張していた西安市のオーナーの王さんとディーラー・西安利之星汽車有限公司との間で新車との交換や賠償金を条件とした合意が結ばれ、双方は握手をして和解した。これと同時に、ベンツは謝罪し、このディーラーの営業販売を一時停止し、関係機関がオーナーの支払ったという「金融サービス費用」の調査を開始する。
表面的には、この事案は効果的に解決されたようにみえる。当事者の権利・利益の訴えは認められ、関連企業は調査を受けることになり、法律・法規違反の疑いがある業界の暗黙のルールが白日の下にさらされ追及を受けることになった。しかし実際には、この和解は消費者に正当な権利の保護への信頼感を与えることはなかった。ネットユーザーの「道理を説けば、ひどい扱いを受ける。だだをこねれば、問題は解決する」という声は的を射ているといえる。
問題は真の解決に至ったのだろうか。オーナーの王さんが出した8つの要求のうち、最初の3つは(1)該当車の履歴を調査し、ディーラー店舗に到着してから販売が終了するまでどのような状態にあったのか基本的な状況を教えてほしい。(2)自動車納車前整備(PDI)が本当に行われたか、検査担当者は有資格者だったかどうかを知りたい。(3)利害関係者でない第三者に車両を検査してほしい。品質に問題があれば法律に基づいて賠償してほしい、という自分の購入した自動車の品質を問いかけるものだった。興味深いのは、車の返品と返金のほか、公開された合意はこの3つの要求に対して何も回答していないことだ。自分の権利を守ろうとしたオーナーがボンネットの上に座り込んで涙ながらに抗議し、世論の批判の矛先がディーラーに向かい、監督管理機関が介入するなど大変な騒ぎになったが、この事案の最も核心的な自動車の品質問題は軽視されている。
西安のベンツオーナーが直面した真の問題が解決されなければ、他の消費者が「具体的事例によって法律を正していこう」としても無駄な努力に終わるだけだ。実際、次のような問題が起きている。和解のニュースが伝わると同時に、他のベンツオーナーがこのディーラーのところへ行き「金融サービス費用」の返金を要求したが、拒否された。全国各地の消費者とディーラーとの間でこの「金融サービス費用」をめぐりトラブルが発生した。鄭州で起きたベンツオーナーの権利保護事案はさらに深刻で、4S店(ディーラー)が納車してから24時間も経たないうちに、オーナーはパワーステアリングシステムが故障していることに気づいたが、店側は修理・交換・返品を約束する「三包規定」に基づいて返品を受け付けようとせず、オーナーは怒りを隠せずにいた。「こうした問題を解決するためには、ボンネットの上で涙ながらに訴えなければだめなのか」。
事案というものは、個別的なものにみえて、実は普遍性、代表性を備えていることが多い。個別案件の処理は法律法規に基づき、深く掘り下げて細心の注意を払いながら行わなければならず、そうしなければ真の問題の解決にはならないし、真の問題を解決することもできず、市場の公平な秩序を守ることも、関係各方面の正当な権利を守ることもできない。新車のオイル漏れは小さなことではなく、軽い場合には、エンジンの寿命に関わり、ひどい場合には引火してしまう。問題の原因がメーカーにあってもディーラーにあっても、私的な和解合意で解決するのではなく、真剣に調査し、責任を明確にし、違法行為には法的責任を負わせ、法律に基づいて厳罰を下して同じような問題の再発を防がなければならない。
1990年に北米地域で起きたBMWとオーナーのゴアさんとの法廷闘争は、米国の合衆国最高裁判所における典型的事例とされる。医師のゴアさんは購入したばかりのBMW新車が輸送段階で酸性雨に浸食され、納車前に部分的な再塗装が行われたが、BMWの4S店はこのことをゴアさんに伝えなかった。当時、BMWは米国各地で同じような状態の車約1千台を販売したという。ゴアさんはBMWを被告として訴訟を提起し、最終的にアラバマ州の最高裁判所がBMWに200万ドル(約2億2380万円)の懲罰的賠償金の支払いを命じた。この判例は、新車・中古車の瑕疵を消費者に伝えないディーラーとメーカーに対する重大な警告となり、消費者の知る権利を最大限に保護するものとなった。
報道によると、西安市の監督管理機関が市内の4S店をはじめとする自動車販売企業に消費者の権利を侵害する行為や不当な競争の問題がある場合は厳しく取り締まるとしており、迅速な対応は評価できるが、大々的な取り締まりを行うとともに、今回のベンツ事案を引き続き追跡し、自動車の品質の鑑定結果を速やかに公表し、消費者に法律を武器にして自分の権利を守るよう奨励することが必要だ。(編集KS)
「人民網日本語版」2019年4月19日