2020年9月に行なわれた第75回国連総会から、先ごろ閉幕した中国の全国両会(全国人民代表大会・全国人民政治協商会議)においても、この半年間で「カーボンニュートラル」というあまりなじみのなかった専門用語が、しきりに登場するホットワードとなってきている。「経済参考報」が伝えた。
「CO2排出ピークアウト」と「カーボンニュートラル」とは?
「CO2排出ピークアウト」とは、中国が2030年までに石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料の燃焼、工業生産プロセス及び土地利用の変化と林業などの活動で生み出す温室効果ガスの排出量をこれ以上増やさずに、ピークに達するようにすることを指す。
「カーボンニュートラル」とは、一定期間内に直接的または間接的に生み出す温室効果ガスの総排出量について、植樹・植林、省エネ・汚染物質排出削減などの方法を通じて生み出す二酸化炭素の排出量と相殺し、CO2(二酸化炭素)の「ゼロ・エミッション」を実現することを指す。
グランドデザインが登場
国家発展改革委員会が4月19日に行なった記者会見で、同委政策研究室の副主任を務める孟■(王へんに韋)報道官は、「CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルのグランドデザインを急ピッチで推進し、8つの面における取り組みを重点的に行なう。1つ目は産業構造の最適化・高度化を推進し、産業のグリーン・低炭素発展のレベルを絶えず向上させること。2つ目はエネルギー構造の調整に力を入れ、再生可能エネルギーによる代替を進めること。3つ目はエネルギー消費のダブルコントロール制度を堅持・改善し、重点分野の省エネに全力で取り組むこと。4つ目は科学技術の研究開発の取り組みを強化し、グリーン・低炭素技術が重大なブレークスルーの達成を推進すること。5つ目は政府と市場の両方が力を発揮することを堅持し、グリーン・低炭素政策体系と市場化メカニズムを整備・改善すること。6つ目は生態環境の保護・修復を強化し、生態システムの二酸化炭素吸収源の能力向上をはかること。7つ目は全国民に省エネを推進し、グリーン・低炭素ライフという新たなトレンドを作り出すこと。8つ目は国際交流・協力を強化し、グリーンなシルクロード建設を推進し、世界の気候・環境ガバナンスに参加し、これをリードすることだ」と説明した。
CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルが一連のイノベーション成果を生み出す
一方でCO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルに取り組みながら、もう一方で経済社会の発展を推進することは、どうすれば可能だろうか。科学技術部(省)の王志剛部長はこのほど開催された同部主催の「カーボンニュートラルの科学技術イノベーションにおけるルート選択」をテーマにした香山科学会議で、「科学技術がこの2つを同時に実現する上でのカギだ。CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルは一連の科学技術の結論、科学技術の方法及び技術イノベーションの成果を検証し、これらを生み出すよう促進するものとなる」と述べた。
王氏は会議の中で、「CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルは今後、科学技術革命によって、経済・社会環境の重大な変革をもたらすだろう。その意義は第三次産業革命にも引けを取らないものであり、科学技術に携わる人々が中国の国情に軸足を置き、科学技術イノベーションを通じて中国の未来の低炭素発展を支える競争上の優位性を形成することを願う」と述べた。
風力エネルギーや太陽光エネルギーなどが電力のメインストリームに
中国工程院の杜祥琬院士は、「現在、CO2排出ピークアウトまでまだ10年あり、CO2排出はまだこれからピークに向かっていけるとする見方がある。しかしCO2排出ピークアウトとはピークに向かうことではなく、カーボンニュートラルに進むための基礎的なステップであり、この2つの目標は本質的には低炭素へのモデル転換だ。中国が化石燃料中心のモデルから非化石燃料中心のモデルへと転換することは、極めて意義のある新たなエネルギー革命となる。化石燃料のうち、『石炭は豊富、石油が不足し、天然ガスは少ない』という中国のエネルギー資源の状況を再認識する必要があると同時に、豊富な非化石エネルギー資源を必ず中国のエネルギー資源の重要な構成要素ととらえなければならない。カーボンニュートラルの目標を踏まえて試算すると、中国は2030年までに非化石エネルギーが総エネルギー需要に占める割合が25%に達する見込みで、このことは中国が非化石燃料を中心とする低炭素エネルギーシステムを段階的に構築し、また長期にわたり火力発電を中心としてきた電力業界が徐々に汚染物質排出削減の達成を促すことになるだろう」と述べた。
杜氏は、「この10年間、中国は太陽光発電や風力発電などの新エネルギーによる発電コストを持続的に引き下げてきた。これからは非化石燃料による電力を中心とした新エネルギー電力システムをもつことになるだろう。電力システムの体制、メカニズム、管理運営などの各方面に、新システムに伴う一連の革命的な変革を求めることにもなる」と続けた。
交通、建築、ホームなどすべてを電化
化石燃料を直接燃焼させるのに比べ、非化石燃料による電力がCO2を排出しないクリーンエネルギーであることは間違いない。CO2を大量に排出する工業に対して、杜氏は、「カーボンニュートラルの目標は中国の工業を電化へ向かわせ、軽工業におけるボイラーや鉄鋼業などを始めとする重工業における高炉はいずれも電気炉に取って代わられるだろう。各地方もエネルギー消費量の多い産業の発展への衝動を押さえ込み、省エネと高効率が産業発展のキーワードになるだろう」と指摘した。
交通輸送についても同じことが言える。ここ数年、新エネルギー自動車が中国で急速に発展しており、カーボンニュートラルの目標が確立したことを受けて、新エネ車普及の歩みは加速する一方だ。杜氏は、「交通業界の汚染物質排出削減のよりどころはエコ移動だ。中国は美しい中国の脱炭素化した交通エネルギーシステムを次第に構築することになるだろう」と述べた。
CO2排出削減の実現では、建築も同様に歩みを進めなければならない。清華大学の江億教授は、「将来的には、各地の居住空間やオフィスの建築建造、そしてその運用において、すべて電化を実現する。各種の建築物の表面には可能な限り太陽光発電設備が設置されて発電を行なうとともに、建築物の中には分散型の蓄電システムが構築される。同時に周辺の駐車場を利用し、スマート充電ポールを通じて新エネ車とつながる。建築物の内部には直流配電システムが構築され、建築物のフレキシブルな電力利用を実現する。中国の北方地域が冬の集中暖房で大量のCO2を排出することについても、技術の探求を通じて徐々に電化への代替を進め、冬の熱供給におけるCO2排出ゼロの熱源を実現することになるだろう」と説明した。
杜氏は、「建築物の汚染物質排出削減と電化がカギだ。将来の暖房、冷房、照明、調理、家電はすべて電化され、より多くの省エネ・汚染物質排出削減型スマートホーム製品を生み出し、電力の自家発電・自家消費さえ可能になるだろう。こうした方法を通じて、中国には大勢のエネルギー『生産消費者』が生まれ、エネルギー構造を変化させ改善できるだけでなく、新たな業態や局面も作り出すことになるだろう」と述べた。
ゴミ分別と省エネ・汚染物資排出削減が完全に生活の一部に
杜氏は、「CO2の排出削減には循環型経済の発展が必要だ。各都市の固体廃棄物の資源化利用のレベルは現代化のレベルを示す必須の指標だ。そのため、ゴミの埋め立てを減らすためには、ゴミを高度に資源化させ、根本のところで分別をしっかり行なわなければならない。現在、中国の一部都市は『廃棄ゼロ都市』のテスト事業を進めており、固体廃棄物の環境への影響を最小限にするよう努力している。中国は将来、『廃棄ゼロ社会』に向かうだろう」と述べた。
カーボンニュートラルの目標を実現するためのルートには汚染物資排出削減だけでなく、CO2吸収もある。植樹や造林をして、森林のCO2吸収量を増やすことが有力な措置になる。ここから予見できるのは、「植樹造林を強化し、植生被覆率を向上させ、大自然をCO2の運搬役にする」という環境保護の理念がこれからますます人々の心に深く入り込み、行動にも現れるようになるということだ。杜氏は、「炭素排出量取引、気候の取り組みへの投融資、エネルギーモデル転換ファンド、CO2除去技術、CO2利用技術などがCO2排出削減を誘導する政策ツールと新技術の特徴になり、また新たな投資の注目点と産業発展のチャンスを形成することになり、多くの人々の生活に影響を与える」と指摘した。
同会議に出席した多くの科学者から見ると、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルの目標確立に関わりがある社会の側面は実に広く、すでにエネルギーや交通などの具体的な領域をこえており、将来の人類社会にもたらす変革の意義は、蒸気機関車や電気、原子力エネルギー、コンピューターの誕生にも引けを取らない。一方、目標の達成に必要なことは、社会が上から下まで全体で共に努力することだ。杜氏は、「CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルは経済社会の進歩と生態文明の建設を深いレベルで推進し、経済、エネルギー、環境、気候のウィンウィンと持続可能な発展を実現することになる」と述べた。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2021年4月23日