日本のアニメやドラマ好きが高じて日本語を学ぼうとする学生は今も少なくなく、日本語学科が設けられている高等教育機関も少なくない。しかし、日本語を専攻する学生たちを常に悩ませているのが就職問題だ。今回は、浙江工商大学東方語言文化学院の久保輝幸副教授に、現在日本語を専攻している学生たちが直面しているこうした問題から、その対策など、今後の日本語学習や日本語教育のあり方について、寄稿いただいた。
——編集者付記
2018年の年末、大学等の日本語科(日語専業)の中に、ある種の安堵感を感じる。日中関係が改善に向かっていることが、その一因だろう。しかし、日本語科の学生の就職は依然として厳しく、楽観を許さない。なぜなら、日本語科が抱える問題の多くは、日中関係に起因するものではないので、日中関係の改善ですべてが解決されるわけではないからである。日本語専攻に厳然と立ちはだかる課題について、拙見を述べ、皆さんの批正を請いたい。
数年前、私がある中国の大学に勤務していた頃、日本語科新設の準備が任務のひとつであった。私は当初、日本語科を新設するならば、先達の経験や知恵をできる限り借りて、より優れた学科を設計したいと考えていた。そこで、中国の、主に国内の沿岸都市の大学を中心に、教員や学生に聞き取りを行い、日本語科の状況を調べた。そこで見えてきたのは想像以上に深刻な、日本語人材の過剰供給と学生の就職難、それによる日本語選択希望者の減少、更に学生の学習意欲低下という問題であった。高度な日本語が使えても将来の見通しが立たないなら、苦労して日本語を勉強する必要があるのか。学生の本心は、機械翻訳や音声認識の制度が日々向上するのを肌で感じながら、「中途半端なレベルなら、機械に取って代わられる」と、必死に頑張るか、あるいは放棄するか、ではないか。
熱心な日本語教員のなかには、「学生の学習意欲を何如に向上させるか」「学生をどのように楽しく、効率よく学習させるか」、などといった方面に力を注いでいる方も多い。こうした努力も確かに重要ではあるが、出口が見えない教育に対して一抹の疑念を禁じ得ない。それは多くの学生が求めていることではないようであるからだ。
学生の就職難は、日本語科が抱える重要課題の一つである。就職難とはいっても、企業の採用がないわけではない。問題は給与などの待遇にある。具体的にいえば、一般職など他の給与が日本語通訳など日本語を要する職種より高く、かつ日本語通訳のままでは昇格できる見通しもないという現実である。例えば、内陸部のある省都では初任給が一般職で5,000元程度のところ、日本語通訳は3,500元前後である。この待遇で就職する学生はどうしても日本語を使いたいので我慢しているか、専科(専門学校)等の卒業生である。毎年、大量に輩出されている日本語人材に比して通訳などの募集は多くないので、3,500元でも需要供給のバランスで、結局、応募者がいる。つまり、企業として給与5,000元を払う理由はないのである。
私の知る日系企業の現地スタッフの多くは日本語人材の給与が低いことを十分に認識しているが、特に製造業の場合は何如にコストを抑えるかが重要である上、物価が年々上がっている中国では製造業は大変苦しい状況にある。2年前、ある製造業サプライヤーの日本人が「もう日本で生産した方が生産コストを安く済ませられるくらいなんです。でも下請けだから、自社の工場だけ移転するわけにもいかない」と漏らしていた。実際、移転が容易なアパレル企業は早々に東南アジアや南アジアに製造拠点を移している。一方、材料調達や部品製造など複雑な階層によって成り立つ自動車等の製造は、簡単に海外移転できない。たとえば下請け製造業者が東南アジアに移転した場合、製造した部品は毎回、税関を通さなければならなくなり、納品の時期も読みにくくなるうえ、臨機応変に対応できないという問題も起こる。そこで、これらの企業ではまず沿岸部から内地への移転を行う。高速鉄道などのインフラが整いつつあり、中国の地方行政府も誘致に積極的なので、湖北省や湖南省などでは実際に工場の移転ラッシュが起こっている。格安航空会社(LCC)等によって、これらの都市に日本からの直行便が運行し始めたことも、それを後押ししているようだ。このような現象が日本語人材の需要が生むかというと、それほど単純なことではない。
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