草原を駆ける馬の群れ(撮影・崔博群)。
毎年真夏になると、内蒙古(内モンゴル)自治区各地の伝統的な遊牧文化を受け継ぐ牧畜民は、夏営地へと大移動する。大移動を通して、草原の草が食べ尽くされることがないようにし、草原を守ることができるだけでなく、家畜により多くの種類の牧草を食べさせることができる。中国新聞網が報じた。
錫林郭勒(シリンゴル)盟阿巴嘎(アバグ)旗の鋼蘇勒徳さんは、3日かけて、100キロ離れた北側の夏営地へと移動する計画を立てた。記者は鋼蘇勒徳さんに同行し、その様子を取材した。
移動の途中で休息をとる「90後(1990年代生まれ)」の牧畜民・鋼蘇勒徳さん(撮影・崔博群)。
出発前、早い時間から手伝いのために来ていた鋼蘇勒徳さんの親戚や友人は、牛や羊に印を付け、数を数え、水をたっぷり飲ませていた。
しかし、出発直前になって、一頭の牛が産気づいてしまい、しかも難産になるという想定外のトラブルが起きた。鋼蘇勒徳さんたちは5時間以上かけて牛の出産を介助したものの、残念ながら生まれた小牛はすぐに死んでしまった。新たに誕生した子牛を連れて出発できると楽しみにしていた鋼蘇勒徳さんは少しがっかりした様子だった。
難産の牛の出産を介助する鋼蘇勒徳さんたち(撮影・崔博群)。
翌日、鋼蘇勒徳さんは、別の牛が子牛を無事出産したのを確認し、大喜び。「ほら、昨晩生まれた子牛。悲しいこともあるけれど、うれしいことのほうが多い」と気分を高揚させながら話していた。その日の早朝、草原の東の空から太陽が昇った時、西にはまだ白い月が見えていた。
内蒙古自治区・錫林郭勒大草原で目にすることができる夏の大移動(撮影・崔博群)。
牧畜業地域で育った鋼蘇勒徳さんは大学卒業当初、都市に残ってイラストレーターとして数年間働いていた。しかし、自分も妻も、草原で暮らすことを強く望んでいたため、3年前に子供を連れて草原に戻って来たという。「草原に戻って、自分は思っていたよりもずっとこの土地が好きだったことに気づいた。それは、僕の人生における最高の『大移動』だった」と鋼蘇勒徳さん。
雨があがり虹がかかった草原(撮影・崔博群)。
3日目の朝、北部で霧雨が降り、水を得た草原は活気にあふれていた。約7ヶ月間の休閑期を経て、夏営地は牛や羊が食べることのできる牧草が青々と茂っていた。これで大移動が無事終わり、移動前は120頭だった牛の数は121頭に増えていた。
夏営地への大移動(撮影・崔博群)。
鋼蘇勒徳さんは草原の生命力を目にして思わず感嘆の声を上げ、「草原では毎日新しい命が生まれてくる。僕たちの目に見える小牛や小羊のほか、小鳥や子ウサギなどもいる。草も同じ。昨日雨が降って、今日には新しい草が生えている。ここは、思わず感動せずにはいられない環境だ」と語っていた。
そして、「僕たちが受け継いでいるのは遊牧という方法というよりも、遊牧の精神だ。それは自然を畏れ敬い、自然に順応し、草原を愛し、生活を楽しむという精神。それは僕たちが受け継ぐべき知恵でもある。僕たちは前の世代からそれを学んだので、伝承していかなければならない。それは僕たちの責任。そして僕はそれを果たせると思っている」とした。(編集KN)
「人民網日本語版」2023年7月17日