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「市集」という言葉は昔からあるもので、決まった場所で定期的に行われる交易活動を指している。しかし21世紀の「市集」は違う。運営者がさまざまな商業施設を転々としながら、空いている場所を探してはテントを立て、SNSで人を呼び集めるマーケットイベントやフェスイベントのことを指す。出店者にはデザイナーやアーティスト、文学青年などがいて、それぞれ自分のオリジナルブランドを持っている。共通点は、「市販されているようなありきたりの商品は売らない」ということだ。
今や、「市集」は地域経済を活性化する重要な業態の1つになっている。
トレンドと「市集」の化学反応
欧州の多くの都市では、オリジナルのハンドメイド品などを扱うマーケットイベントが都市の魅力の一部になっている。最も草の根で、新進気鋭のストリートファッションやトレンドの発信地であり、多くの才能あふれるアーティストやデザイナーの事業のスタート地点でもある。
一方、中国国内では、「市集」はずっと一部の人たちが好む趣味だった。新型コロナウイルス感染症が落ち着くと、オリジナルグッズなどを扱う「市集」がオフラインで頻繁に開催されるようになった。「市集」では、若者がトレンドの商品や珍しい小物を手に入れられるだけでなく、他では味わえないニッチなコーヒーや焼き菓子・パンなど手作りの食品などを味わえ、夜になると音楽のライブパフォーマンスが行われることもある。
休暇で北京に旅行に来た王歓さんは、フード系マーケットやフェスイベントを手がける伍徳吃托克(WOODSTOCK OF EATING)の「中秋(中秋節、旧暦8月15日、今年は9月21日)限定」イベントに友だちと一緒にやって来た。北京旅行の日程がちょうどのこのイベントの開催期間とぶつかったのだという。「『市集』は楽しいだけでなく、普通の店では売っていないものが買える。特にニッチで個性的なものは、実際に目で見て試してみないと自分に合うかどうかわからない」と話す王さんは、オリジナルデザインのネックレスを数本買ったほか、ネットで人気のニッチなコーヒーを飲み、イラストレーターAlanの店で似顔絵を描いてもらい、その場ですぐに微信(WeChat)のアイコンにした。
Alanは今回初めて成都から北京にやって来て「市集」に出店した。大学を卒業して海外留学する計画だったがコロナで延期になり、「空き時間」を自分の好きなことに使おうと思い、イラストレーターとして大都市の「市集」に出店するようになったという。
大まかな統計によると、中秋節連休から国慶節(建国記念日、10月1日)連休までの間、北京だけでも街頭や商業施設で数十回以上のさまざまなテーマの「市集」が開催され、人とシェアすることの好きな若者が写真を撮ってSNSにアップした。従来の大型の催事と異なり、「市集」はファッションやトレンドと結びついて、若者に好まれるイベントへと変身を遂げた。
若者が「市集」を好むのはなぜ?
「95後(1995年から1999年生まれ)」と「00後(2000年代生まれ)」がファッション消費市場の中心になるにつれ、その消費習慣にも驚くべき変化が起きている。北京の「市集」イベントをいろいろ観察すると、最先端で、面白い、ストーリーのある商品が常に若者の人気を集めていることがわかる。
若者はなぜ「市集」を好むのか。Alanは、「今の若者は写真を撮り、人気スポットに出かけることが好きで、普段の生活から離れて普段行かない場所に行きたいと考えている。『市集』は新しいトレンドで、人とは違った面白い商品を手に入れて、自分らしさをアピールすることもできる。気に入った商品が見つからなくても、写真を撮って、何かおいしいものを食べれば、楽しい1日を過ごせる」との見方を示した。
ニッチなオリジナルブランドが集まる「市集」モデル
「市集」の価値はこうしたことだけにとどまらない。若者の好きなトレンドの発信源であり、低コストでのお試し出店、SNSなどへの露出、トレンドの牽引を上手く一体化した商業インキュベーターなのだ。多くの新たな消費ブランドが「市集」で初めて登場している。「2021年国産品飲食消費トレンド報道」は、「市集」は今や新たな消費ブランドのオフラインテストに最も適した場所だと指摘した。
多くのブランドが「市集」で若者のマーケットと接触し、彼らの嗜好を探り、絶えず創意工夫を図っている。師堯さんはアクセサリーのデザインを始めた当初、青銅器などをモチーフにしたオリジナルのシルバーアクセサリーを製作していたが、若者にはそれほど人気がなかった。「2018年に宇宙をモチーフにしたハンドメイドのシルバーアクセサリーを作ったら、とても人気の商品になった。今ではブランドのメインの方向性の1つにもなり、関連製品が60種類以上ある」と言う。
知名度が上がると、「師堯オリジナル」ブランドは深セン市の華僑城クリエイティブ文化パークに実店舗も構えるようになった。しかし師さんは今でも、各都市の大型「市集」に出店し、1点1点商品を自分の手で磨くようにしている。「せっかく自分でデザインしたのだから大切に扱いたい。若い人に僕のマインドを感じてもらいたい」としつつ、「デザイナーとしては、オリジナル商品が『市集』で認められるのはもちろんいいことだけれど、絶えず新しいデザインやアイディアを打ち出し、創意工夫とレベルアップを続けていきたい」とも語った。
張艶さんは「80後(1980年代生まれ)」でカフェオーナー。張さんが南京のコーヒー関連のフェスから北京に戻って間もない週末、ある3人家族が張さんの店にやって来た。南京から張さんの店のコーヒーを飲むためにやって来たという。張さんは、「実は南京という都市には期待していなかった。でも、(フェスの店で)その家族は写真を撮るだけでなく、店内でうちのバリスタが顔見知りであることに気づいた。というのも、前にコーヒー関連のフェスで会ったことがあり、コーヒーに関する心得についてそのバリスタと話したのだという。コーヒーフェスは単なる数日間のイベントというだけでなく、持続的に変化をもたらす可能性もあると実感した」と言う。
「市集」業態が各地で開花 長期的に発展するには?
若者を呼び込むだけでなく、数多くのオリジナルブランドを集められることができる「市集」業態はここ数年、全国各地で花を咲かせている。多くの商業施設やアートセンターが「市集」の集客効果に期待するだけでなく、伍徳吃托克のような「市集」イベントを専門に行うプラットフォームも次々生まれている。
業界関係者は、「集合的プラットフォームを構築して、バラバラに散らばったニッチブランドや独立系デザイナーが市場とのマッチングをスピーディーに試し、顧客資源を探り当てられるようにするとともに、消費者側も1つのプラットフォームで多種多様なオリジナル商品を買えるようになることを目指している」と述べた。
しかし商業施設が主催する無料で出店できるものと異なり、このようなプラットフォームは入場料や出店料を徴収するのが一般的だ。「出店者と来場者の両方から料金を徴収する」やり方に一部の若者は納得できないという。しかし多くの人は、「専門的プラットフォームにはプロの運営者がいて、イベント全体に必要な物品の企画、ブランドのPRなどを一手に引き受け、出店する側はPRや入場者の動員などで頭を悩ませる必要がない。主催者側は大量の人手と資源を投入し、場所代を支払っており、料金の徴収は理解できる。問題は主に徴収の基準をどのように判断して決定するかだ」と考えている。
業界関係者はまた、「百花繚乱の『市集』業態の下、消費者とニッチなオリジナルブランドの『市集』への要求がますます高くなっている。一方では、『市集』がスタイルを変えて刷新を図ることができなければ、市場が飽和状態に近づく中、より多くの優れた資源を誘致することは難しい。その一方で、優れたオリジナルのブランド数が少なく、多くの『市集』が同質化の問題に直面している。『市集』は目下のところ安定的に発展しているが、どうやって長期的に発展するかについては、各方面がともに努力し、優れたブランドを絶えず選別して育て、若者により多くの選択肢を提供することが必要だ」との見方を示す。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2021年10月27日