2日、華為(ファーウェイ)技術有限公司は、スマートフォンなどのモバイル端末に対応可能な独自開発の基本ソフト(OS)「鴻蒙(Harmony、ハーモニー)2.0」と、これを搭載したさまざまな新製品を正式に発表した。発表以来ずっと外部の注目を集めてきた「Harmony OS」だが、そもそもこれは重圧下での緊急措置なのか、それとも新たな競争を視野に入れた動きなのか。既存ソフトの「焼き直し」なのか、それとも産業けん引の新たな使命を担うものなのか。
ベールを脱いだ「Harmony OS」
「Harmony OS」が発表されてからもうじき2年になる。これまではスマートウォッチ、スマートディスプレーなどのIoT(モノのインターネット)製品に搭載されてきたが、「未来志向」のこのOSの全貌は神秘のベールに包まれていた。
「Harmony OS」はどんなものなのか。とりわけスマホに使用される「Harmony OS」はどんなものなのだろうか。ユーザーが関心を寄せるのはこの点だ。全体として言えるのは、「Harmony OS」はユーザーの体験に焦点を当て、デバイスごとにOSが異なるという問題の解決に主眼を置いたということだ。
ファーウェイは2日の発表会で、「Harmony OS」は次世代のスマート端末に向けたOSであり、異なるデバイスのスマート化、相互接続、協同に向けて「統一した言語」を提供するものだとした。「Harmony OS」はより便利、よりスムーズ、より安全で、分散型オペレーション機能によって1つのシステムで大小さまざまなデバイスのニーズに対応し、フレキシブルな配置を実現する。N個のデバイスを1つの「スーパー端末」に統合し、ハードウェアの相互サポート、リソースの共有を可能にし、ユーザー個人のニーズに基づいて自由な調整が可能だという。
利用シーンを想定してみよう。深夜に家で映画を見ているとする。スマートディスプレーのアイコンをスマホのアイコンにドラッグすると、スマホで見ていた画面がスマートディスプレーに映し出される。ファーウェイのイヤホンをしていれば、イヤホンのアイコンをスマホのアイコンにドラッグすると、スマートディスプレーで画面を見ながら、イヤホンで音声を聞くことができる。これなら映画を堪能できるし、家族にも迷惑にならず、スーパー端末がもたらす便利さを気軽に味わえる。
「Harmony OS」のこれまでと現在
実はファーウェイにはかなり前から「2012年滅亡の危機」の予感があり、11年に「2012ラボ」を立ち上げて独自開発に乗り出した。ファーウェイは12年にアンドロイドシステムに問題が起きると考え、未来の発展に合致したOSを設計・開発することにした。「Harmony OS」プロジェクトはこうして立ち上げられた。
それから8年後の19年、海外からの制御不能な重圧、産業の変革があっという間に行われてしまう時期にあって、「Harmony OS」は背水の陣を敷かざるを得なくなった。海外企業は相次いで供給を停止し、チップの供給が断たれ、アンドロイドシステムのライセンス授与が取り消しになり、20年に打ち出す予定だった「Harmony OS」を前倒しして打ち出さざるを得なくなった。こうして19年8月9日、ファーウェイ消費者向け端末事業部の最高経営責任者(CEO)の余承東氏が「Harmony OS1.0」を初めて発表し、研究開発の過程、将来の計画とタイムラインを明らかにした。
しかし、この発表は多くの論争を巻き起こした。一方では、当時の「Harmony OS1.0」の主な応用シーンはスマートディスプレーにとどまり、緊急対応が必要になったスマホ業務はそれほど内容が充実していなかった。またその一方で、「Harmony OS1.0」はどちらかといえばまだコンセプトであり、システムに対応したプログラムや、ましてや開発環境などはまだ発展途上にあった。しかしながら、ファーウェイの消費者向け業務開拓の過程を見てきた人は、引き続き「Harmony OS」に大きな期待を寄せた。その後、ファーウェイは初の100%独自開発のコンパイル(プログラムを機械語に翻訳する)プラットフォーム「方舟(Ark)コンパイラ」を打ち出すとともに、「Harmony OS」をオープンソースのシステムにした。
20年12月、「Harmony OS2.0」のベータ版が開発者向けに公開された。このリリースにより、一方では、応用実施のシーンがより多くのデバイスへと広がり、例えばファーウェイのウェアラブルデバイスや車載システムでも使えるようになった。そしてその一方では、ベースとなる大量のソースコードも公開された。
21年6月2日夜、ファーウェイは「HarmonyOS2.0」とこれを搭載した複数の新製品を正式に発表した。
今、振り返って見ると、IoT向けのシステムがスマホのOSへと転換するのは非常に困難だったことがわかる。
「Harmony OS」はスマホだけのOS?
アンドロイドやiOSを使い慣れたスマホユーザーにとって、「Harmony OS」は一体どんなものだろうか。
「Harmony OS」の関係責任者の王成録氏は、「PC時代のOSはWindows(マイクロソフト)、スマホの時代のOSはiOS(アップル)とアンドロイド(グーグル)だ。『Harmony OS』は万物のインターネット(IoE)の時代に向けたOSだ」と述べた。
「Harmony OS」を使えば、スマホを含むさまざまなハードウェアが、ベースの部分でつながり、融合して、まるで1つのデバイスになる。スマホ、スマートウォッチから家電、自動車まで、スマートオフィス、スマート交通からスマートホーム、スマートファクトリーまで、「孤島」状態のデバイス間がバリアフリーでつながり、さらに簡単に操作できるようになる。
王氏は、「私たちはアンドロイドやiOSの代替品を作ったわけではない。本質的に差がないとすれば、新しいビジネス生態系のチェーンを作り上げるのは困難だ。新しいシステムで成功したいと思ったら、カギは産業のモデル転換のタイミングをつかまえることだ。IoTが急速に発展して、今後10年間は産業の変革期になるとみられ、これが当社独自のOSにとって歴史的なチャンスになる。必ず自分たちのベースの上でビジネス生態系を育てなければならない」と述べた。
市場の反応を見ると、中国では家電・ホーム、スポーツ・健康、飲食・交通、映画・音楽・娯楽、オフィス・教育など幅広い分野の産業界が、「Harmony OS」とその産業生態系に積極的な態度を示している。
今年5月、中国家電大手の美的集団が関連文書を発表し、年内に「Harmony OS」を搭載した約200種類の製品を市場に数百万台投入する計画だと発表した。ファーウェイ消費者向け業務AI(人工知能)・フルシーン業務部の楊海松副社長は、「すでに発売した『Harmony OS』搭載のスチームオーブンレンジの場合、3週間のテスト販売で1千台が売れ、予想の10倍に達した。このデータはあらゆるハードウェアパートナーを引きつける力があるものと確信する」と述べた。
「生死を分けるライン」を早く越えたい
ファーウェイにとって、市場シェアは必ず乗り越えなければならないハードルだ。
一方で、スマホメーカーは、今後「Harmony OS」を搭載するかどうかまだ態度を明らかにしていない。モバイル端末のOSでは、現在はアンドロイドとiOSが圧倒的な優位に立っている。またOPPOやvivoなどの「友好関係にあるメーカー」はそれぞれ自前の相互接続・互換のシステムをもつ。
楊氏はこのほど、「『Harmony OS』が現時点で直面する最大の挑戦は、市場シェアの問題だ。調査研究により、『市場シェアが16%を超える』かどうかがOSの生死を分けるラインであることがわかった」と述べた。
そこで、ファーウェイは21年に「Harmony OS」が3億台のデバイスをカバーすることを目指し、うち2億台は自社のデバイス、残りの1億台は協力パートナーのデバイスとする。楊氏は、「ファーウェイは今年中にこの生死を分けるラインを早く乗り越えたいと思っている。これはつまり、他の企業なら5年から10年かかって歩む道を今後1年で歩むということだ。ファーウェイは自社デバイスのコントロール権については自分たちで握っている。『Harmony OS』について言えば、1億台の協力パートナーの製品が、実はビジネス生態系構築が成功するかどうかを決めるカギになる」と述べた。
しかし、アンドロイドともiOSとも、さらには既存のどのシステムとも違うのは、「Harmony OS」が異なる種類の複数のデバイスに対応するシステムだということだ。言い換えれば、従来の市場シェアでは判断できないということだ。一体、携帯電話市場でのシェアで判断するのか、それともIoT市場でのシェアで判断するのか。どちらも適切ではない。接続するデバイス数が、おそらく最も数量化しやすい指標になるだろう。
今後の「Harmony OS」の見通しについて、電気通信産業アナリストの付亮氏は、「相対的に見て、今後のスマートコネクテッドデバイスでは、『Harmony OS』のチャンスがより多くなるだろう。スマートコネクテッドデバイスはシステムに対する要求がそれほど高くなく、ファーウェイと協力できるスマートデバイスメーカーも数多くある。また大部分のスマートコネクテッドデバイスのメーカーは、国内市場に向き合うだけでよく、国際市場の反応を気にする必要はない」と述べた。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2021年6月8日